魔女の条件






1999年4月某日。今日は俺こと天野てらが風見ヶ原学園に入学する日だ。
新しい学校生活への期待に胸を弾ませ俺は軽い足取りで学園に向かう。

「…軽い足取りと言うか…
メチャクチャ走っておるではないか」

その時俺の首元で上下に揺れる首輪、物型アートのガーランドが
俺の思考にツッコミを入れた。

「うっせ!人の頭ン中を勝手に読むな!」
「わしとてらはアートとアート使いの関係なのじゃから仕方あるまい」

ガーランドの言う通りアートとアート使いは言葉を話さなくても
意識だけで意思疎通ができる。
逆に言えば俺の考えていることが図らずもある程度ガーランドに
伝わってしまうということだ。
こういう関係な以上どうしようもないことなのだが、
自分の考えが筒抜けというのはあまり気分のいいものじゃない。

 「あぁもう!ぜってー遅刻だ!もう間に合わねー!」

泣き言を言いながらも足を止めずに俺は叫ぶ。するとガーランドは呆れ半分に尋ねてきた。

「学校までは一本道じゃろう?どうして迷うのじゃ」
「違ぁう!寮の中で迷ったんだ!」

まだ風間の町に慣れていないのに加え、だだっ広い寮のおかげで
俺は転校早々遅刻の危機だ。
ただでさえ中二からという中途半端な入学なのに、この上知らない人だらけの教室に
「遅刻しましたぁ」と言いながら入っていくなんて…。

 「ちくしょー!友達できなかったらお前のせいだー!」
「わしのせいか?!」

頭をよぎる嫌な想像を振り払うように首を左右に振ると俺は走る速度を上げた。



■■■



 俺がようやく校門に着いたときには登校時間をゆうに
十分は過ぎていたが、校門前は(こと)(ほか)にぎやかだった。

 「……戦っておるのぉ」

ガーランドがそのまんまの感想を述べる。

 校門前では壮絶なアートバトルが展開されていた。不良同士のケンカだろうか。
俺は小首を傾げた。

「…何にせよ、先を急ぐぞ」

アートバトルの流れ弾を食らわぬよう注意しながら
俺が校門をすり抜けようとしたその時俺の前に一人の女子生徒が立ちはだかった。


「ちょっと待ちなさい!私の目の前で遅刻をごまかそうなんて言語道断!」

 黒く長い髪。勇ましくつり上がった眉の添えられた目は鋭く俺を見据えている。
ムチを持った右手をびっと俺の方に突きつけてそいつは怒鳴った。

無論俺は俺の行動が遅刻をごまかしているとは知らなかった。
だが、この女子に言われてようやく気が付いた。
あのアートバトルは、遅刻者と風紀委員の戦いなのだ。

「遅刻者には然るべき制裁を!」

女子は問答無用で攻撃を仕掛けてきた。
俗に言う女王様よろしくぴしぃっ!とムチを打ちつける。

「ぅうわっ!!」

女子の一撃を横に跳躍して避けると俺はガーランドを外して
女子と同じくムチのようにそれを地面に打ちつけた。
校門前で戦いが起こるということは、ここで風紀委員を突破すれば
遅刻はなかったことになるのだろう。これはおいしい。

(女の子だからと言って容赦はしない気味っ!)
「どっちなんじゃ」

ガーランドのツッコミを無視して俺は女子との間合いを詰めにかかる。
戦闘開始だ。

 「最大集中最大出力!のっけから全力で行くぞ!」
「了解じゃ!」

ガーランドが答えるが早いか、ガーランドから青い閃光がほとばしる。
ガーランドの属性、雷の力だ。

「ガーランド!俺に勝利の祝福を(ブレシング)っ!」

電気を帯びてばちばちと音を立てるムチを二、三度振るうと、
俺は女子の人型アートに一撃仕掛ける。
だが、俺がムチを打ったその場所にすでにアートの姿はない。

瞬間、俺の背中に嫌な気配が走る。俺が弾かれたように後ろを振り返ると、
案の定そこには今まさに手を下さんとする女子のアートがいた。驚くべき速さだ。
今からではとても避けられないが、みすみす攻撃をくらうわけにもいかない。
俺は目一杯身を後ろに引いた。



■■■



 「つ、強い……」
「ほーっほっほ!そら見なさい!遅刻なんてこの『校門前の魔女』、
風紀委員の渡瀬玲子が許さないわよ!」

戦闘結果。女子、渡瀬さんに一矢報いることもできずに俺はこてんぱんにのされた。
戦闘中何があったかは筆舌に尽くしがたいが、とにかく秒殺だ。

 俺は雷に撃たれたような感覚を覚えた。
まさかこの俺が同じぐらいの年頃の女子に成すすべなくやられるなんて。
ムチで叩きすえられ、ひりひりと痛む頬をに手をやり、俺は輝く瞳で彼女を見上げる。

(俺そんなんじゃないけど、俺そんなんじゃないけど……ドキドキするっ…!!)
「変態かお前は」

ガーランドの批判的コメントも耳に入らない。
俺の顔は紅潮していた(恐らく叩かれたため)。


 「その学部色、中等部ね。あなたのHRクラスと名前は?」
「あ、天野てら。クラスは今日入学するからまだ知らされてない、です…」

俺が地面に膝をついたままうっとりと答えると、渡瀬さんはあら、と言って
少し意外そうな顔をする。

「あなた転校生?じゃあ校門バトルは初めてなの」

俺は黙ってうなずく。すると渡瀬さんは明るく笑って手に持っていた手帳を
ポケットにしまい、その代わりにどこからかレジの店員が使うような
バーコードスキャナを取り出した。


「初めてだから慣れてなかったんでしょ?
リスト入りは勘弁してあげるからID出しなさい」

俺はすぐさま渡瀬さんにIDカードを差し出しながら感動に打ち震えていた。

 (冷徹なまでに勇ましい戦いぶりなのに、敗者に情けをかける…
まさに女神だ!魔女だ!!)
「どっちなんじゃ」

かつてこの渡瀬さんほど強さと優しさと恐ろしさ(強調)を兼ね備えた女がいただろうか。
まさに彼女は千年に一人の戦乙女!恋泥棒!鬼神!恐怖の大王!

「後半は褒め言葉か?」

うっとりしているので例のごとくガーランドの言葉は俺に届かない。

「それじゃあ、もう遅刻するんじゃないわよ?
あ、クラスは学部の職員室に行けば教えてもらえるから」

俺は渡瀬さんから返されたIDを大切に両手で持つと、
去っていく彼女の後ろ姿をぼんやりと眺めつづけた。


 「…ガーランド、俺知らなかったよ…」

前をじっと見つめたまま、俺は言葉の先を紡ぐ。

「初恋がこんなに…こんなに……痛いものだなんて…」
「ボコボコにされたからじゃとか、お前の発言がイタいとかツッコミどころ満載じゃの」

かくして俺の初恋は転校初日に、鮮烈な記憶と激痛を伴って
風見ヶ原学園の魔女、渡瀬玲子に奪われた。



■■■



 手渡された腕章と風紀手帳。俺がそれを眺めていると
風紀委員長がはっきりとした声音で俺を始めとする新入委員達に言った。

「では、端から自己紹介を」

学年ごとに並んだ新入委員達は各々気合たっぷりに自己紹介をしていく。
そして、俺の番。

 「中等部二年、天野てら!魔女の尖兵として全力を尽くしますっ!!」

周囲の訝るような視線の中、俺は満面の笑みで深く頭を垂れた。
これが、俺と渡瀬さんの出会い、そして俺の学校生活の真の始まりだった。







お疲れ様でした。
PC独白の小説って結構疲れるのだなぁと思い知った今日この頃です(何)
このプラテはずいぶん前に書いたものでして、知り合いの方に
こそこそと見せていたりしたんですがようやく手直しを加えてアップできました。
某ドラマのタイトルと一緒ですがタイトルにあまり意味はありません。
取りあえず魔女ってついていれば…。タイトルセンス欲しいです。

 てらのあの性格(笑)の始まりはこのときにあるのかもしれません。
このときに確立されたと言うか(笑)
渡瀬さんと出会って以来彼にとっての学園生活は常に渡瀬さんと共にあります。
渡瀬さんに仕えるため(側にいるためではなく、あくまでも仕えるため/笑)に
風紀委員会に入った彼にとって、学校生活はそのまま風紀委員としての生活です。
だから風紀委員会に入ったときからが彼の学校生活の始まりです。
少なくとも、てらはそう思っています。

 渡瀬さんに関しては…自分なりに彼女を考えた結果こういう人になりました。
私の中での渡瀬さん像はこんな感じです。
強くて、勝気で、優しくて、仕事熱心で、意地っ張りなところもあって、
有無を言わせぬ恐ろしさがあって、それでいて乙女チックな面もあって。
すごいかわいくて、生き生きとした女の子です。
てらはそういうところに惚れたんでしょうね。
何をやるにも手を抜かないマジメな彼女のために何でもしてあげたいと思っているんです。
そしてその上で自分なんて歯牙にもかけてないような態度をとって欲しいと(笑)





   




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