ロマネスク





 ―――教科書は退屈。ここに書いてあるのは現実ばかりだ。


 一度教科書を閉じかけて、神青は我に返った。
今しがた自分の胸をよぎった考えを自嘲にも似た思いで一蹴し、前髪をかき上げると
まだ手を付けていない数学の問題に取りかかる。

 自分でも普通ではないと思う。
神青にはここは現実であり、自らがそこに生きているという感覚が
ある一瞬すっぽりと抜け落ちる『持病』があった。
抜け落ちた感覚の代わりに自分が現実ではない、どこか別の所に存在しているような
感覚が半ば確信のように神青の心を支配するのだ。

 こういう話をするとみな口を揃えて「マンガの読みすぎだ」と言う。
確かに心当たりは十分過ぎるくらいにあるし、神青自身も自らの持病をそんな程度の
ものだろうと思っている。
完全に現実と非現実を錯誤して人に迷惑をかけるようなことがなければ
世間も自らも特に気にしないのでこの持病を積極的にどうこうしようという気持ちは
神青にはないが、それでも現実と『自らのいる場所』の差に妙な気持ちになることは
止められなかった。

止むことなく生きていかねばならないこの世界、それこそが現実だ。
しかしどこかに、この世界のどこかに自らのいる場所に繋がる裂け目が
あるのではないか。現実ばかりを見ていては気付けない、密やかな裂け目が。
そんなことばかりを考え、その考えをばからしいと一蹴してという流れが
神青の一日の大半だった。

一向に片付かない数学の問題をしばし諦め、神青は何かどこかに非現実的な出来事でも
転がっていないかと非現実に思いを馳せ始めた。

 ―――例えば、鬼女とか?

脳裏をよぎったその言葉に神青は思わず口の両端をつり上げた。
六百年も前から語られている伝説。鬼女ならば何の不足もない。
神青自身伝説を完全に信じているわけではなかったが、鬼女が実在したら、
それを見つけることができたら。想像するだに気持ちが昂った。
今このあたりの学校では不思議な噂も流れている。
噂の真偽を追うように鬼女の存在を追うのもいいかもしれない。
神青は笑い出しそうな自分を必死に制して、教師の視線をやり過ごすように
再び教科書に視線を落とした。

 ―――教科書は退屈。ここに書いてあるのは現実ばかりだ。

しかし、現実とは違うものがあるはずだ。きっと、自らの側にも。
それを見つけ出すという密かな決意に思わず笑みを浮かべてしまう口元を
神青は頬杖をつくふりをしてそっと覆った。








お疲れ様でした。こういう人がクラスにいると怖いよねというプラテでした(何)
特に本編に必要ないかと思って省いた設定ですが神青は結構電波な人です(笑)
電波って割と大事な情報ですけどね!付き合う上で!!(笑)
確かルーマーの開始前に書いていたものだと思われます。
私はPCのOPとEDを勝手にプラテで書くのが好きなので恐らくその類かと(×)
 タイトルのロマネスクは様式のことではありませんで、現実からふっと別の場所へ
抜け出すことだか抜け出したくなる衝動だかをそう呼ぶ…という適当な知識が元です。
でも恐らく正式名称ではありません(×) タイトル考えるの苦手だからって
適当な仮称をつけて結局そのままというパターンが多すぎます(×)

何はともあれ、ここまで読んでくださってありがとうございました!
 




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